2018年7月30日月曜日

ソ連の“くびき”のしかかるロシア年金改革 少子化、基金枯渇で実態から乖離

ロシアのプーチン政権が、年金制度改革をめぐり迷走している。メドベージェフ首相が6月に打ち出した改革案は国民の猛反発を受け、政権支持率は2週間あまりで10ポイント以上下落した。低年齢で給付が開始されるロシアの年金制度は、高水準の福祉を誇示したソ連時代のなごりだが、経済の低迷が続くロシアの実態にはそぐわないのが実情だ。

メドベージェフ氏が計画を発表したのは6月14日。ロシアでサッカー・ワールドカップ(W杯)が開幕した日だ。世界的注目を集めるスポーツイベントの開幕日にぶつけたのは、“悪いニュース”から国民の目をそらす狙いがあったとの憶測が飛び交った。

計画は、現在女性が55歳、男性が60歳の年金受給年齢を、それぞれ女性が2034年に63歳、男性は28年に65歳に引き上げるというもの。発表を受け、プーチン大統領の支持率は2週間あまりで約50%にまで落ち込み、各地で政権を糾弾するデモが発生した。

スターリンの遺物

現在の年金受給年齢は、旧ソ連のスターリン時代に設定されたものだ。資本主義陣営に対抗し、共産主義国家の“手厚い”福祉政策をアピールする狙いだったとされる。生活環境が厳しい北極圏やシベリアでは需給年齢はさらに低く、ムルマンスク、アルハンゲリスクなどでは女性50歳、男性55歳などとされている。需給年齢を低く設定することで、これらの地域への移住を促す意図があったという。

無理な制度

しかし、現行制度の維持は困難になりつつある。最大の理由はロシア国内で進む少子高齢化だ。

旧ソ連では第2次世界大戦中の犠牲を補うため、戦後は出産が奨励された。一橋大学経済研究所の雲和広教授によれば、ソ連崩壊直前の1980年台後半まで出生率は2・0を上回っていたという。しかしソ連崩壊後の経済・社会混乱で、後継国家、ロシアの出生率は急減。2000年には1・20を下回る水準に落ち込んだ。

一方、ソ連崩壊後の混乱期を経て、主力輸出品である原油・ガス価格の上昇などを受け経済が一定の発展を遂げたことで、平均寿命は改善傾向にある。年金受給年齢の引き上げを主張するロシアのクドリン元財務相によれば、1970年台に1人の年金生活者を3・7人の労働者が支えていた人口比率が、現在は約2人になり、今後さらなる減少が予想されているという。

財政状況は悪化

年金制度を支える財政状況も、好ましい状態とはいえない。露政府は財政の赤字状態を石油・天然ガス価格の上昇時にためた国家基金で補填(ほてん)していたが、歳入の減少を受け、2017年末に2つあった基金の一つが枯渇した。

ロシアは資源以外の分野への産業の多角化は進まず、市場の急激な変化には極めてもろい経済構造が続いている。政権は、財政の大きな重荷となっている年金制度を改正せざるを得ないのが実情だ。

政権は懐柔か

露国内ではW杯期間中、試合会場となった大都市でのデモが禁じられていたが、W杯終了後はデモがそれらの都市にも飛び火する可能性が高い。そのような中、ロイター通信によると、露政府関係者は既に、年金需給年齢の引き上げ計画を軟化させる方向で調整をはじめた事実を明らかにした。

ただ、問題を先送りしても事態は今後、確実に悪化が予想される。年金をめぐる動向は景気に多大な影響を与えるのは確実で、対露ビジネスに関わる日本企業にとっても注視が必要な状況だ。産経ニュースより

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