ヤシオスタン。埼玉県八潮市はこんな異名で知られるようになってきた。多くのパキスタン人が同市に集結しているという意味の造語だ。現地でパキスタン系レストランを経営するズルフィカール・アリさん(48)に聞くと、街の意外な実態が浮かんできた。(松村友二)
つくばエクスプレスの八潮駅からバスで15分ほどのところにある「アルカラム」が、アリさんの経営するレストランだ。壁には派手な装飾がされたバスの写真や、金のアラビア文字の額縁があり、エキゾチックな雰囲気が漂う。
笑顔で迎え入れてくれたアリさんは、1992年に留学生として来日。現在は日本人の奥さんと子供と暮らし、日本での生活の方が長くなった。
「日本は住みやすいよ。近所の人もあいさつしてくれるし、教育・医療・治安のシステムが良くてどの国よりも優れている。これは本当にすごいこと。パキスタンにも日本に来たいと思っている人は多いよ」
一方で不満はというと、「日本人は男が働きっぱなし。リラックスできる場所がない。子供は塾に行くし、奥さんも働いていてストレスたまっている。夫を立てるべきはずの奥さん、『奥』という字なのに表に出てしまっている」。もちろん奥さんは専業主婦だ。
オススメ料理だと出してくれたのは、ラム肉と4種類の豆をペースト状に煮込んだハリム。現地ではポピュラーなのだという。辛さも本格的で、エスニック料理が得意な方にはオススメだ。
アリさんの店などがテレビでも紹介された八潮。市内にはモスクもあるが、パキスタンが外国人で最大勢力というわけではない。2017年時点で同市在住のパキスタン人は134人で、中国(674人)、フィリピン(626人)、ベトナム(641人)を大きく下回っている。
バブル期には移り住む人も多かったが、今は仕事を確保することが難しくなり、それほど増えていないという。市役所周辺のパキスタン系店舗も3つあるが、アリさんの店にいた客は昼すぎまでは記者のみで、やや拍子抜けの感もあった。
しかし午後1時を過ぎたころから、様相は一変する。店の前に車を止めたパキスタン人らが集まり、店内はすぐに満員状態になった。この日は金曜で、イスラム教の休日、安息日だった。
「きょうはイスラムにとっては、特別。神様にお祈りしてからみんなが集まる」とアリさんは店内をせわしなく駆け回った。現地語が飛び交うなか、「シャチョー」と日本語で呼ばれるアリさんも談笑に加わった。
隣町の草加市や三郷市の仲間もお昼のお祈りを終えると、ふるさとの味を求め、憩いの時間を過ごす。西川口の“チャイナタウン化”とは異なる形でヤシオスタンの顔をのぞかせるのだ。
食後、彼らの会話に混ぜてもらうと、漏れてくる不満は、イスラム教に対するイメージだった。
「ハリウッド映画の悪役はたいていがイスラム教徒をイメージしている。映画と違って現地では誰が誰に殺されている? 過激派にイスラムの人たちが何人も犠牲になってるでしょ」
地元の人に聞くと、「怖い感じがする」「不気味ですよね」という声もある一方、好意的な声も多い。パキスタン系レストランのある中馬場町会の木村進町会長(78)は、「八潮には歴史的にもパキスタンの人が働いていた。彼らはあいさつするし、ゴミ出しも一度注意すれば大丈夫。何の問題もないよ」。
八潮近郊に住むパキスタン人から「お父さん」と呼ばれているアルカラムの大家、昼間一夫さん(76)は「あそこ(アルカラム)が国境なきレストランになるといいね。もっと日本人から積極的に話さないと」と理解を示す。
辛いものが得意な人はヤシオスタンを体感してみてはどうだろうか。夕刊フジより
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